◆化合物分野への人工知能の展開に関しまして:
日々進歩している人工知能ですが、この技術を化合物関連分野(創薬、毒性評価、物性デザイン、他)に適用するためには様々な条件や技術的なバリアをクリアする事が必要となります。
現在の画像認識や音声認識等の分野で急速に成果を出した人工知能ですが、化合物を扱う分野に直接適用する事は出来ず、正しい化合物操作を行なうための細かな関連技術の開発/展開や導入が必要となります。 これは、化合物のアナログ情報を計算機の基本であるデジタル情報に変換する事が必要となるためです。
このように、人工知能上で化合物を扱うには様々な関連技術が必要となりますが、これらの技術的な課題について以下に簡単に記載します。
第一に、化合物のアナログ情報をコンピュータ(インシリコ)上に正しく乗せるための技術が重要です。 この技術はコンピュータが化合物を扱う時に必要な基本技術です。 このような技術は、
1. 計算機化学(コンピュータケミストリー)
という学問分野で展開され、長い歴史と多くの研究者が関与してきました。
計算機化学(コンピュータケミストリー)は化合物のアナログ情報を計算機の基本であるデジタル情報に変換しする技術です。 化合物情報を計算機に正しく乗せて、様々な操作(化合物表示、化合物検索、化合物データベースや化合物データ解析、他)をする上で極めて重要、且つ必須な技術です。 この技術が無ければ化合物をコンピュータ上で扱う事は出来ず、次の段階となる化合物情報を人工知能で扱う段階に進むことは困難です。
現在発展中の人工知能を化合物の分野に適用するためには、1.で述べた計算機化学(コンピュータケミストリー)の技術に加えて、さらに様々な実施目的に必要となる
2. 化合物情報を正しく人工知能に載せる
ための技術が必要となります。 この段階での技術は世界的にみても開発に取り掛かった段階で、今後さらなる展開が必要となります。
創薬や毒性評価、化合物物性デザイン等に人工知能を正しく適用するためには、1.の化合物のアナログ情報をコンピュータのデジタル情報に変換する計算機化学(コンピュータケミストリー)技術と、2.の人工知能に載せるための関連技術だけでは、不十分です。
実際には創薬、毒性評価および化合物デザイン等の
3. 個々の研究分野における様々な特殊要因や専門知識
を理解して、人工知能に反映する事が必要となります。
現在の人工知能は発見型なので、このような分野単位の専門知識やノウハウは必要ないと論じる方もおります。 しかし、人工知能を専門分野において正しく、効率よく働かせるには教師データの選択、実行結果の評価等の様々な段階で専門知識やノウハウは不可欠です。 例えば深層学習で基本となる分野の画像認識技術やコンピュータ関連技術だけでは、化合物に関する専門人工知能を構築できないことは明らかです。
さらに、人工知能そのものの手法や技術に関する知識、人工知能関連分野となる様々な知識(例えば
4. 化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)
等も必要となります。
1.計算機化学(コンピュータケミストリー)の技術:化合物情報をコンピュータで扱うための基本技術
2.上記1の技術に加えて、人工知能に化合物情報を載せて、理解させる技術
3.個々の適用分野(創薬、毒性評価、物性デザイン、他)に関する様々な知識
4.人工知能に関する知識と、化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)等に関する知識
化合物関連分野に人工知能を正しく適用し、信頼性の高い人工知能へと導くためには、この他に様々な技術の適用が臨機応変に出来る事が求められます。 人工知能という言葉が日常の会話に頻繁に出るようになるにつれ、化合物分野への人工知能の適用も簡単に出来るように見えてきています。 しかし、信頼性が高く、人工知能の適用結果が正しいものへと導けるようにするためには、上記で示したように様々な技術のクリアと理解、連携、融合が必要となります。
以上
湯田 浩太郎