EUにおける動物愛護団体の動物実験禁止への運動と動物実験代替法の動き:
◆オーストリアのウイーンで見た、動物愛護団体の動物実験禁止運動の現場
昨年8月にオーストリアのウイーン(VIENA)で開催されたEuroQSAR 2012にポスター発表で参加していた時、会場に行く途中オーストリアの国会議事堂の前を電車が通るのですが、たまたまその同じ場所を別の日に電車で通っている時、EUでの動物愛護団体による動物実験禁止運動の現場を見ることが出来ました。
上の写真はオーストリアの国会議事堂の前から撮りました。この国会議事堂は観光の上での大きなスポットとなっています。
この国会議事堂の前を市電が走っているのですが、次の日に電車の中から国会議事堂の写真を撮ったのが次の写真です。
国会議事堂の前に仮の支柱を建て、そこから大きな垂れ幕がつり下がっています。垂れ幕の写真を見れば、動物愛護団体が動物実験禁止を訴えた内容であることがすぐにわかります。写真を拡大してみるとわかりますが、注射針がウサギの眼に突き刺されているイメージが感じ取られます。実際には注射針を刺さずに液体を点眼しているのですが・・・。ウサギの眼の愛くるしさと、注射器の痛々しいイメージが見る人に動物実験の残虐性を強く訴えています。
こちらの写真は、先ほどの主たる垂れ幕の脇に地面の上に置かれた横断幕の様子です。
日本国内にいると、西欧諸国、特にEUにおける動物愛護団体や環境保護団体の力が強いという話は良く聞きます。しかし、日本国内の現状から推測するとそのような活動の状況や、社会への浸透力、影響力といった事はなかなか推測できませんでした。実際に現場で活動している人々は若者が中心で行なっていました。活動を支える人々の層の厚さがわかるような感じがします。
今回のように、実際にその運動をしているところをみると、EUの人々の動物愛護に対する感情や意志は日本と異なり、本物であり、極めて強いものであるという事を改めて感じました。
◆動物実験代替法とEUにおける動物実験禁止の動き
このような動物愛護団体の強い後押しもあり、EUにおいては今年の3月以降、皮膚関連研究での動物実験データの利用禁止(事実上での動物実験禁止)が制度として動き出します。現在、皮膚関連研究分野ではこの動物実験に代わるIn Vitro試験の確立が急がれており、その有力な動物実験代替法の一つとしてインシリコによるスクリーニングが注目されています。
当然、EUにも大きな市場を有する日本の化粧品や関連企業も対応に動き出しており、この流れを受けて日本動物実験代替法学会も大きく動き出しており、その年会等も昨今急速にその参加者を増やしております。
◆動物実験代替法とインシリコスクリーニング技術
では、動物実験代替法におけるインシリコスクリーニング関連技術としてどのようなものが考えられるのでしょうか。皮膚関連研究分野での適用には、従来から展開されている薬理活性探索を目的としたインシリコスクリーニング技術の適用はその基本原理上適用困難です。一方で、皮膚関連でもADMEを主体としたPK/PDシミュレーションによるアプローチは可能ですが、薬物動態だけでは安全性を評価する事は出来ません。丁度、薬理活性探索と毒性評価をADMEで議論するのは極めて困難であるのと同じ関係です。
◆化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングの歴史
現在、毒性評価に基本原理上から適用可能な手法として化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)技術があります。毒性評価への化学多変量解析/パターン認識の適用自体はかなり昔から適用研究がなされてきましたが、当時からの適用条件から、実験を行なって評価するのが最も確実であるとして、インシリコによる毒性評価は殆ど重視されてきませんでした。
現在と異なり、動物実験も行なえるし、評価すべきサンプル数も多くなく、またインシリコによる予測自体が当時の極めて貧弱な計算機環境、さらにはデータ解析手法自体も幼稚という条件下では、やはり熟練した実験科学者による実データ重視が当然の帰結でした。
◆時代の変化と技術の進歩による新たな毒性評価へのチャレンジ
現在は、一昔前と比較して研究に関する環境が様々な観点で大きく変化してきました。最大の変化は動物実験が行なえなくなるという変化でしょう。これは、先にも書きましたように、最終的には実験データを利用するという「実データ主義」が通用しなくなったことを意味します。
この流れは、環境保護団体の強い後押しもあり、化合物毒性に関する化合物規制(REACH)が実施された流れと逆になります。EUはもともと化合物毒性に関しては「実データ主義」が強力な地域でした。しかし、世界の多くは化合物の毒性評価を全てにわたって実施するのは実用的観点から不可能であるとして、実データ主義と距離を置いていたのですが、これを振り切って規制を実施しました。REACHも試験適用期間を過ぎて、本格運用期間に入ってきました。REACH規制で化合物の毒性データが充実してくると、それらのデータを用いてインシリコスクリーニングによる毒性評価信頼性も大きく向上する事となり、相乗効果が生まれます。
◆インシリコデータによる毒性(安全性)評価へのチャレンジ
インシリコデータの湯田は、化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)による化合物の毒性評価という研究業務を、留学先のアメリカペンシルバニア州立大学のJurs先生が開発されたADAPT(Automated Data Analysis by Pattern recognition Techniques)を用いて行ない、その部分開発や日本へのシステム導入を行ってまいりました。また、この分野での長い経験から、従来手法によるデータ解析手法をそのまま用いた毒性評価には限界があると見極め、化合物の毒性(安全性)評価に特化した新たな解析手法となる「KY(K-step Yard sampling)法」を開発しました。さらに、化合物の特性を利用し、与えられたサンプルグループ内で最高の予測パフォーマンスを出すことが出来る「テーラーメードモデリング」の技術の開発にも成功し特許化致しました。この二つの基本技術は化合物の毒性(安全性)予測を大きく改善するポテンシャルを持ちます。
株式会社インシリコデータは以上の二大技術を基本とし、長期にわたり経験してきた化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)技術のノウハウを駆使しつつ、新しい時代の要請に答えるインシリコスクリーニングの技術支援を行なってまいります。
◆化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングの特徴
化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングの特徴は、その基本原理から適用範囲が毒性(安全性)のみならず、創薬に関係する全ての特性に適用可能であるという点です。化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングではその予測対象として薬理活性、ADME、毒性(安全性)、物性等の一連の創薬に関係する全ての特性を予測対象とするjことが可能です。一つの基本的なアプローチで多くの種類の特性を予測できることは、予測項目単位に予測手法を変えることと比較した時、大きな利点を持ちます。この点でも、化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングの優位性が際立ってきます。
この事実から、インシリコデータは化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)技術の長期にわたる経験やノウハウ、そして新たに開発された技術を融合し、会社としての最終目的となる「並列創薬(Parallel drug design)」を提唱します。さらに、「並列創薬」における個々の特性予測が完全(100%)となった時に実現する「一段階創薬(One step drug design)」の実現を目指して継続的に研究努力を続けます。
文責:株式会社 インシリコデータ 湯田 浩太郎
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なお、一部で著者の私的な情報に関する掲示板としても本ブログを利用いたしますが、この点お許しください。
In this blog, I discuss and write various themes which I cannot edit on the homepage of the In Silico Data. This blog also partly include a little personal themes.
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