インシリコデータ株式会社関連ブログ;Blog of the In Silico Data Ltd..

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2014/10/01

時代の変化に対応したオムニバス教育:Omnibus education corresponding to the changes of the era

先日、(9月25日(木))開催された「薬づくりの新しいR&Dモデルを探る」セミナーシリーズ の第四回目として開催されました、「ICT活用のフロンティアと求められる人材」に参加してきました。
 本セミナーで感じたことは大きく以下の二つです。
1.複数の研究分野で構成されて実現される、いわゆる境界領域研究が急速に増えてきていること。
2.複数の研究分野にまたがる研究を行なう、あるいはそのような分野で活躍する人材の育成が急務であるが、極めて難しいこと。

 1の問題は、個々の分野の技術を高めることで解決してきたことが、さらに高度な内容に答えるために、他の分野の技術との融合が必要となることです。例えば、燃費の効率向上を目指すために行なう自動車の軽量化が、金属の分野から炭素繊維等の分野にも広がりつつあることなどがあるでしょう。炭素繊維等の技術は、金属一筋の研究の延長からは考えられないものです。
 また、医療分野では現在は、単に機器を用いた様々な医療情報に加えて、遺伝子等の情報を加味して最終的な診断を行なう事が必要となりつつあり、機器による情報に加えて遺伝子関連の情報を理解して総合的に診断する技術が要求されます。

 このような学際研究分野の極みと言えるのが計算機毒性学(Computational Toxicology)に関する研究です。計算毒性学を実施するのに関与する研究内容としては毒性の種類や研究内容により組み合わせ項目が変化しますが、毒性学、コンピュータ関連技術、化学研究、環境学、バイオテクノロジー、メタボロミクス、計算機化学、データ解析技術等々の研究が関与し、これらの組み合わせをまとめる、あるいは実現する事で可能となる、極めて学際性の高い学問となります。
 極めて学際性が高いため、計算毒性学研究はどの研究分野でも扱われることが無かったのですが、最近になり毒性関連の研究環境が大きく変化し、計算毒性学の必要性が急速に高まってきました。既に西欧では計算毒性学に関する研究が始まっており、幾つかのワークショップ等が活動しており、幾つか成果を出しつつあります。日本では、計算毒性学を取り上げた研究機関はなく、この分野では西欧に後れを取っており、将来の展開において日本は西欧の後塵を拝するという状況になります。
 このような事実を少しでも解消すべく、先のブログでも報告しましたようにCBI学会に「計算機毒性学(Computational Toxicology)」研究会を設立いたしました。本研究会は、より多くの研究者の方々に参加いただきたく、参加にあたりましてCBI学会である必要はありません。CBI学会会員以外の方々にも積極的に参加いただきたく存じます。

 2の問題(学際研究を行なう人材育成)が当日行なわれましたセミナーの大きな討論項目となりました。
 東大農学部の永田宏次先生より、東大農学部では既に10年前より農学部内で講座の境界を越えた教育として以下のようなプログラムを実際に実施しているとの報告がありました。

東京大学大学院農学生命科学研究科、アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット
 http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/index.shtml
 確かに内容を見ると様々な研究分野が網羅されており、このような教育が受けられるのは、今後重要になる学際領域研究を担う人材の育成に大きな役割を果たすことが出来るものです。
 以前私は、農学部の研究は幅が広く農学と一言で言うが、それを構成する分野は農芸/食品化学、生物、バイオテクノロジー、発酵/醸造、昆虫/獣医学、生態学と極めて広い研究分野から構成されているという話は聞いたことがありました。私の所属していた薬学部もある意味では学際領域研究であり、様々な研究分野から構成されていましたが、農学部はそれ以上のスケールで広範囲な研究分野から構成されております。この意味で、現在必要とされるオムニバス教育が出来る環境にあると言えるでしょう。

 このようなオムニバス教育を実施する場合、個々の講義を務める先生は、個々の研究分野でスキルを高めた先生で実施出来ます。しかし、実際に学際研究を行なおうとすると、複数の研究分野を横断的に俯瞰し、個々の研究分野のベクトルをまとめ、当面の研究ターゲットに向けての方向づけを行なうスーパーバイザー的な人材が必要となります。このようなスーパーバイザー的な人材が、現在のオムニバス教育により育ってゆくものと期待できます。

 一時、創薬研究分野でADME/Tの研究が創薬において極めて重要ということで、多くの製薬会社が自社内のADME研究者と毒性(安全性)研究者を集め、これに創薬関連の研究者を加え、研究分野横断的なチームを形成してADME/Tの融合研究に対処するという事がブームとなった時がありました。しかし、ADME研究と毒性研究者、さらには創薬研究者とのバックグラウンドの違い、例えば化合物一つとっても創薬研究者は構造式が基本で考えて討論するが、ADMEや毒性では構造式中心の議論はあまり行なわれない。このような場合にも、創薬/ADME/Tを俯瞰出来て、全体の議論をまとめて、ベクトルを一本化する事の出来る人材が必要である。このような人材が、前記オムニバス教育等により達成できると期待できると思います。

 農学部のような広範囲な研究者を抱えた学部で実現出来るオムニバス教育にも限界があると考えます。j時代の急激な変化に耐え、研究を先導する学際研究を担う研究者を育てるには、学部を超えた教育体制が必要です。学生が、必要に応じて好きな学問を選択できる(数学、物理、コンピュータ、生物、化学、バイオ、工学、等々)仕組みが必要になると考えます。入学時から学部が決まってしまう日本の教育システムではある意味極めて困難でしょう。しかし、これが出来ないと真の学際研究に耐える研究者を育てることは夢と言えるでしょう。

文責:湯田 浩太郎