◆副作用と持病:Side effect and chronic disease
副作用のない薬の開発は私の研究テーマですが、自分が副作用で苦しむとは夢にも思っていませんでした。しかも、年を取っていると幾つか持病を持っており、これが薬の副作用と相互作用して思いもかけない症状をもたらすとは本当に想定外の事実でした。今回私が経験したことは、年を取ると正規(?)の副作用以外にも持病との関連症状が出て、事態を悪化させる可能性があることを認識しなければならない事です。副作用のない薬の開発は、企業の創薬の観点からのみならず、持病を多く持つ患者(特に老人)との観点からも非常に重要な事です。健康な人であれば、純粋な副作用のみで終わることが、持病との関連で症状を悪化させたり、もともとの持病を再発させたりする事があることを考慮しなければなりません。これからの高齢化社会の創薬や治療では、このような事に関する最新の注意が必要になることを身を持って感じました。
◆薬効の強さよりも、やさしく安全な薬の重要性:
Importantness of drug safety, rather than strength of drug efficacy
現在の新薬は、薬理効果が従来の薬よりも高いことが大きな開発目標となっており、これが新薬承認の条件となります。しかし、今回の副作用の経験から、そろそろこの観点を変えることが必要となっていると感じました。たとえ薬理効果が従来製品と比較して大きく変わらないにしても、持病を抱えて常に複数の薬物を投与している人には、安全な薬の方が重要であると感じました。あるいは、投与する時の医薬品の選択条件として、投与実績が多く、多くの人が安全であると評価し、歴史のある薬の選択が必要と感じました。医者も、新薬でその効果を期待するのではなく、多くの持病との関係を総合的に判断して、最終投与すべき医薬品群を選択することが、人にやさしい安全な医療という観点で重要となるのではないでしょうか。◆今回私が経験した副作用:The side effects which I experienced this time
今回私が経験したのは、もともと持病として心房細動を持っていましたので、脳血栓防止の目的でワーファリンを服用していたことに端を発します。その他、常用役として5種類ほど毎日服用しております。私は、無類の納豆好きであるのですが、ワーファリンの服用開始以後は納豆が食べられませんでした。時々、納豆禁断症状が出てきて、納豆を食べる(医者には内緒です)のですが、心配しながら食べるので、あまり満足できませんでした。こんな中で、今回用いた薬はワーファリンとメカニズムが異なるので納豆を食べても構わないとの話があり、去年からその新薬が上市されるのを楽しみにしていました。上市後、早速ワーファリンから新薬に変えてもらいました。一応、新薬の情報を調べ、現在服用している常用薬との配合禁忌の可能性をチェックし、その可能性はないことを確認しておりました。
新薬に切り替えてから早速毎日納豆をたらふく食べて、その味を満喫していました。しかし、徐々に尿の色が濃くなり始めました。最初は、色もさほど濃くなく、少し疲れが出たのかなーという程度でしたが、徐々に濃い色となってゆきました。それでも、痛いところもないので疲れがひどくなったのかなーと思っていました。しかし、ある朝突然、尿の色が今まで一度も見たこともないコーラ色に激変したので、ビックリしてその日から投薬を中止しました。その結果、数日で尿の色が通常の色に変化したので、とりあえず、問題は解決かと思いました。
◆副作用による持病(尿路結石)の再発:
Chronic disease (urolithiasis) recurrence by the side effect
私は、尿路結石症を持病として持っております。今回はこの尿路結石症が副作用により再発してしまいました。尿自体の色は投薬を中止するとすぐに元の色近くまで透明になったのですが、同時に腹部から脇腹にかけての違和感と排尿の時の残尿感が残るようになりました。過去の経験からすぐに、結石が落ちてきたとわかりました。脇腹の違和感が徐々に背中に移動すると尿路結石症となります。いつ、石が落ちてきて、あの痛みが来るのかとハラハラし通しの日が続きましたが、ある日その石が出てきました。今回は尿路結石に最初にかかった時に石が出た時のような痛みはなく、比較的楽に出てきました。石がトラップできたのは、石が濃い焦げ茶色にコーティングされていたため、痛みはなくともすぐにわかりました。それでも、依然として残尿感があるので注意していたところ、4から5日たってから二個目の石が出てきました。こちらは、一個目よりもサイズが大きく、色が半分焦げ茶色で、半分が結晶特有の白色をしていました。
左の石が最初に落ちてきたもので、サイズが小さく、全体が焦げ茶色にコーティングされていることがわかります。全体的に丸みをおび、サイズも小さかったので落ちやすかったのでしょう。右の石が二番目に落ちてきたものですが、最初のものよりサイズが大きく、半分程度がコーティングされ、手前の方はコーティングされず、白色でフレーク状の結晶の形がわかります。こちらは、形がデコボコして引っかかりやすく、サイズも大きいために落ちてくるのに時間がかかったようです。
以前私が最初に尿路結石になった時に出てきた石は、全体が白色透明で針状フレーク型のきれいな結晶であったので、これと比較して考えると今回の石は血尿のショックで出てきたものであることは間違いありません。
◆持病と副作用が引き起こす二次症状:
Secondary symptom caused by a chronic disease and side effects
そもそも今回の血尿という副作用がなぜ起きたのかわかりません。配合禁忌の医薬品を飲んでいたわけでもありませんし、この点は医者も調べていたはずです。今回の経験で、私として注目したいのは、副作用が引き金となり、もともと持っていた持病(尿路結石)が再発したことです。きっと持病を持っていない若い人が同じ副作用にかかっても、血尿だけで済んでしまうでしょう。しかし、持病を持つ人が副作用にかかると、持病との関係で思いもかけない症状を発症する危険性がある事を身を持って体験しました。◆高齢化社会に対応した創薬と医療:
Drug discovery and medical care corresponding to the aging society
時代が高齢化社会に移行しつつあり、医療費もこれに伴い急速に増大している現在、今回のように持病を抱えている患者への投与を安全に行う事の重要性を認識することが必要と感じました。創薬自体も、薬理効果の高さだけを考えた創薬から、薬理効果というよりも安全性の高い薬を目指した開発が重要となるでしょう。また、安全性自体も単に副作用が出るか出ないかのチェックのみならず、副作用が出た時に、他の関連する病気との相互作用も考慮することが必要です。
複数の持病を持っていることが多い老人は体力も弱く、副作用が原因となって他の持病関連の症状の悪化等につながり、余計な病気で苦しむことにつながる可能性があります。医者もこの点を考慮しつつ、単なる薬理効果の強さへの期待のみならず、患者の持病等も含めた総合的な判断を行い、安全な投与への配慮が大事となります。
今後は創薬や投薬時に、配合禁忌のチエックのみならず、万が一副作用が起きた時に患者が持つ持病との関係についての考慮が必要になってくると考えます。
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